なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

マスコミを裁判員に入れてみる実験

 本日の模擬裁判では、マスコミの人を裁判員の中に入れてみました。ひとつは、メディアから、取材の一手法として記者自身が裁判員を体験してみたいという申し入れがあったことと、裁判所も裁判員制度の実施を目前に控え、いいPRになるともくろんだことから利害が一致し、実際にマスコミを入れての裁判員裁判をやってみたものです。ちなみに、地元TV局のキャスターが1名と、全国紙の支局の記者が1名入り合計7人の裁判員と3人の裁判官で裁判を進めました。
 事案は機能も少し書いたとおり、傷害致死。事実関係に争いはなく、要は情状をどう評価してどういう量刑にするかというものでした。とりわけ、被告人を刑務所に入れる(=実刑)か、それとも執行猶予にして社会内で更生の機会を与えるか、という点が争点でした。
 評議の結果は、7対3で執行猶予派が多数を占め、懲役3年執行猶予5年の判決が下されました。裁判官3名は全員が執行猶予意見でした。
 民間人の意見を裁判に反映させるのが裁判員裁判ですし、事件が微妙なものだけに、裁判員の意見が分かれたのは当然だと思います。しかし、問題だと感じたのは、マスコミの2人がそろって実刑派だったことです。単に個人的な見解で実刑を求めているのならやむを得ませんが、どうも彼らの意識の向こう側には、「自分たちが世論を代弁している」的な雰囲気が感じられました。というのは、評議の際や終わった後の意見交換の際にも、「自分がこれまで取材してきた経験から・・・」などという台詞が枕詞につくことがあって、気負った感じがしていました。マスコミは、最近、いわゆる厳罰化を後押しするような報道姿勢をとっていますが、実はこれは世論がそうなのではなく、マスコミが意図的に作り上げようとしているだけなのではないかとさえ思いました。とくに裁判員をやった全国紙の記者に対しては、「産経新聞の記者かと思った」という失笑が傍聴している弁護士の間から出たくらいでした。
 そういう意味では、なかなか興味深い実験結果に終わったのではないかと思います。