なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

シンポジウム「有罪判決後の被告の人生 〜量刑のための知識」に行ってきました

大会・シンポジウム | 日本犯罪社会学会
 日本犯罪社会学会が主催する公開シンポジウムに行ってきました。場所は国士舘大学のホール。東京にはそれなりに長く住んでいたのですが,世田谷方面は最後まで足を踏み入れることがなかった地域でした。
 渋谷からバスで三軒茶屋まで行き,そこから世田谷線に乗り換えて松陰神社前で降り,歩くこと4分くらい。帰りは小田急梅ヶ丘駅まで歩きましたが,こちらは10分くらいはかかりました。
 さて,このシンポジウムですが,パネラーは,刑事訴訟法の学者,最高裁の刑事局課長(裁判官),元矯正職員の学者,元保護観察官の学者,読売新聞の論説委員など,なかなかバランスの良い人選でした。とくに,現役の裁判官が参加していたのは面白かったし,それが今年の3月まで当地の刑事部で裁判官として働いていた人だったというのは,ちょっとした驚きでした。この高橋康明裁判官は,シンポジウムには,最高裁がつくっている量刑データベースの説明のために来ておられました。ですが,会場に裁判官は一人しかいないので,シンポジウムでは,「裁判官代表」のような立場でいろいろ聞かれたりして矢面に立たされていました。やや気の毒ですが,それはそれで仕方がないですね。
 さて,シンポジウムの肝は,有罪判決後に被告はどのような人生を歩むのか,刑務所とはどのようなところで,どのような生活が待っているのか。刑務所を満期や仮釈放で出たあとは,どこでどのような生活をすることになるのか,そうした知識を市民に持ってもらいたい,という点にありました。これらの正しい知識がなければ,裁判員として「懲役3年がいいのか,それとも5年くらいにしておくか」とか,「執行猶予をつけるのかつけないのか,保護観察もつけようかどうしようか」という疑問にぶつかったときに,正しい判断ができないのではないかという問題意識に基づいています。
 パネラーのひとりからも,また実際に裁判員として裁判にあたったという市民(会場にこられていました)からも,「評議にあたって裁判所がこれらの点をきちんと説明すべきだ」という指摘がありました。それに対する高橋裁判官の説明は,「必要に応じてやっています」程度のもので,残念ながら満足のいくものではありませんでした。
 また,有罪後の処遇や社会復帰をスムーズに進めていくためにも,裁判進行中の段階で,積極的に被告人の周辺事情を調査し,フォローしていくシステムが必要ではないかという問題提起が,期せずして二人のパネラーから同時になされました。要は,少年事件と同じで,「地方裁判所調査官」というような立場の専門家を置き,バックボーンや受け入れ先の調整などを行わせるべきだという議論がなされました。それについての感想を聞かれた高橋裁判官の応答も,これまた「消極的でかなしい」とパネラーに言われてしまうほどのものでした。
 もちろん,高橋さんは司法行政に携わっている現役の最高裁のお役人なので,うかつなことは言えないというのはよくわかるのですが,「個人的な見解」と前置きしてでもいいので,彼の考えるところを率直に語って欲しかったような気がしました。
 そうした不満はあるものの,総じて中身の濃いシンポジウムであり,日本犯罪社会学会に入りたいと思わせるに十分な内容でした。
 レジュメや資料がもうちょっと分量があればよりよかったのですが,無料のシンポジウムなのであまり贅沢を言えないのかもしれません。というか,日弁連のシンポの資料の量が異常に多いとも言えるんですが。
 裁判官の実名を書いてしまったのは,なんとなくやばそうな気がしないでもないので,あとでこっそり消しておくかもしれません(^^;)。