なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 説得力のかけらさえ

 山口県光市の母子殺害事件の差し戻し控訴審についてのテレビでの発言をめぐり、被告の元少年(26)の弁護団に加わる弁護士4人から損害賠償訴訟を起こされた橋下(はしもと)徹弁護士(大阪弁護士会所属)が5日、都内で記者会見を開き、「法律家として責任をもって発言した」と反論、全面的に争う方針を明らかにした。

 被告側が差し戻し控訴審で殺意を否認したことについて、橋下弁護士は「なぜ一、二審と大きく主張を変えたのか、社会に説明すべきだ」と持論を展開、改めて弁護団を批判した。

http://www.asahi.com/national/update/0905/TKY200709050333.html

 朝日の報道だけではなんとも情報不足ですが、この「持論」と懲戒請求とどう結びつくのか、まったく趣旨不明です。こんなことを言うのなら、「法律家」なんて名乗って欲しくないですね。
 まず、弁護団が「1,2審と大きく主張を変えた」としても、弁護団自体が変わっているわけです。前にも書きましたが、1,2審では弁護団は死刑回避のために事件の内容を深く争わず、それが功を奏して死刑が適用されませんでした。ところが、最高裁がそれを破棄したため、新弁護団では、方針を一転させたのでしょ。こんなことは、いちいち弁護団が説明しなくても、一連の経過を見ていればわかることです。
 それより何より、「社会に説明すべき」って何ですか。弁護団は国民に選ばれているのではありません。弁護団が説得すべきは裁判所であって、国民にどうして弁護方針を説明しなきゃならないのか。そして、説明しなかったら、なぜ、それが懲戒事由にあたるのか。弁護団はハシシタ弁護士のように、日ごろマスコミに出て人気を集める商売をしているのではありませんよ。ご自分の立場と弁護団の立場を混乱されても弁護団も困ると思いますよ。
 それから、あるブログで読んだ意見に、「訴訟を起こして橋本橋下と事を争うのは、橋本橋下のいうことを真に受けているようで、同じ(低い)レベルに落ちていくものだ」という批判的見解もありました。
 実は、会内での議論には、同じような意見もありました。ただ、橋本橋下弁護士に対して懲戒請求をするのではなく、損害賠償という民事訴訟の手段を選択したところに、弁護団のかすかな矜持を感じます。弁護団なりに勝算があってのことだと思いますね。