なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

裁判員制度(つづき)

小職のダイアリーを、光栄にも、その筋のひとには人気のページ「岡口裁判官のblog」でとりあげていただいたため、そちらかお越しになっている方がちらほら。小職のページは、裁判関係の雑記やPDAの話題などが渾然とした、ごくパーソナルな内容のため、お読みになる方も苦労されるのではないかと。小職の興味の向くまま、ということでお許しください。
それはそうと、裁判員制度や刑事裁判について、裁判官と弁護士の認識が食い違うのは仕方がないことで、たとえていえば、永遠に分かり合うことのない男と女の関係みたいなものです(^^;)。
裁判員に適切な事実認定ができるか」という疑問は、多くの裁判官がもっておられます。裁判官と直接話をしていると、やはり、「自分たちは訓練も受け、数えきれないほどの事件を処理して身についた専門能力がある。けれども、まったく初めてで、しかも年齢や過去の経験もバラバラの裁判員に、それが可能か」ということを言われます。合議体を形成する裁判員と裁判官の数を、「裁判官の方を多くすべき」などと主張していた裁判官が多かったのも、そのような意識の現れだったのでしょう。
小職が所属する弁護士会では、以前、ちょっとした模擬裁判を行ったことがあります。現役裁判官と公募した市民裁判員の方に裁判劇を見てもらい、それをもとに判決の内容を議論してもらったのです。そしてその議論を公開の舞台でやってもらいました。内容は、スナックで客同士がホステスをめぐってけんかし、客の一人が、灰皿を振り上げて殴り掛かってきた他の客をかわすべく、持っていたナイフで刺して死亡させた、という事件です。殺人の故意があるのかないのか、正当防衛といえるのかなどが争点となりました。現役の裁判官は、われわれ弁護士の目から見れば、これまでどおりの判断の枠組みで事件を見ようとしました。量刑についても、いわゆる「相場」から判断しようとします。これに対し、裁判員に選ばれた人は、かなりいろいろな意見がありました。量刑についても、一人の人間が死亡しているという現実に対し持っている感覚は、実にさまざまでした。しかし、従来の考え方に捕らわれていないだけに、ものの見方が新鮮でした。法的な解釈などについては、裁判官から適切なアドバイスがあったこともあり、議論はほどなく収束し、無事、判決が出されました。
ここは判決の中身について当否を論じる場ではないので、議論の詳細は述べません。ですが、裁判官が危惧されるような、「素人だから能力的にどうか」という議論は、よほどのことがなければ杞憂に終わると感じました。
今、多くの弁護士が問題と考えているのは、裁判員の能力という問題ではなく、制度の導入に伴い変更される刑事訴訟では、被告人の防御活動が困難になるのではないかという点です。
長くなったので、このつづきは、後日、書ければ書くことにします。