なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 司法修習生のブログのどこが問題か

 長崎地裁などで司法修習中の20代の男性が、インターネット上の自身のブログに、検察の実務修習で体験した容疑者の取り調べや司法解剖の内容などについて書き込みを続けていたことが19日、分かった。同地裁は「修習生としてふさわしくない行為があった」として、裁判所法の守秘義務違反に当たる可能性もあるとみて事実関係の確認を急いでいる。
 男性は「司法修習生のなんとなく日記」と題するブログを開設。2月15日には「今日、初めて取り調べやりました」「相手は80歳のばあちゃん。途中から説教しまくり。おばあちゃん泣きまくり」などと取り調べの様子を記載。
 3月20日には、立ち会った司法解剖の遺体に関する記述があったほか、別の日の長崎県内の刑務所視察に触れた書き込みでは「受刑者たちは何だかロボットのよう。何を考えて生きているんだろうか」などと記していた。ブログは今月中旬に閉鎖された。

http://www.47news.jp/CN/200806/CN2008061901000312.html

 原文を見ずに、この記事だけを見て書いています。いったい、このブログのどこが守秘義務違反なのでしょうか。そもそも、守秘義務というのは、どこでどういう修習をしたか、それ自体を秘密にしなければならないということではありません。「秘密」というのは、まさに裁判当事者のプライバシーにかかわることをいうものだと理解します。
 そうであれば、司法解剖や刑務所見学のネタはなんの問題もないと思うし、むしろ、修習の中身を世の中に知らせたり、あるいは、刑務所の実態を伝えるという意味で、有益なものかもしれません(「かもしれない」というのは、実物のブログの論調を知らないので、断定を控えるという意味合いです)。
 では、検察庁での取り調べに関する記事はどうでしょうか。ここで、「ばあちゃん」の氏名や住所が公開されていたり、その推測が可能であるような記事なら守秘義務違反となるでしょうが、この程度の記載なら、まったく問題ないと思いますけど。
 検察庁では、修習生は、実際の被疑者の取り調べを修習の一つとしてやらされます。刑事訴訟法によれば、取り調べができるのは司法警察員である警察官や検察官だけですから、当然、素人である修習生にはその権限はありません。ですが、検察庁は、修習の一環であるとして、これを修習生にやらせるのです。一部の修習生は、それは違法なものであるとして、それを拒否しています。もちろん、これを拒否すると、修習の点数が限りなくゼロになるので、多くの人(とくに検察官や裁判官になろうとする人)は、それを拒否せず、取り調べをやっています。
 さて、この修習生が、そうしたある種の告発的な意図をもってこのブログを書いたとは思えませんが、裁判所や検察庁は、刑事訴訟法に反した修習が行われていることが露見しそうになって、おお慌てしたというのが真相ではないでしょうか。そこで「守秘義務」という伝家の宝刀を抜いて、修習生を脅しているというのが、お上の姿勢なんだと思います。
 実は、ブログブームが到来したここ数年、修習生だけではなく検察官や裁判官のブログも雨後の筍のように生まれてきました。ところが、守秘義務違反の名の元に、裁判所や検察庁からはブログ禁止勧告のようなものが出され、結果として、ほとんどのブログが閉鎖されました。岡口裁判官のように、堂々と実名でブログをやっている人は異例中の異例と言ってよいくらいです。
 修習生の口封じをするような今回の長崎地裁の出方は、多いに問題があると考えます。