なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 おかしなプライドに基づく捜査

 奈良県田原本町で昨年6月に母子3人が死亡した放火殺人事件を巡り、殺人などの非行事実で中等少年院送致の処分を受けた当時高校1年の長男(17)の供述調書の秘密漏示事件で、奈良地検は長男の精神鑑定をした医師を秘密漏示容疑で立件する方針を固めた。鑑定医は供述調書を引用した単行本を出版したフリージャーナリストから「コピーなどを一切取らないから見せてほしい」と依頼され、調書を貸したとの趣旨を供述していることが判明。奈良地検はフリージャーナリストら鑑定医以外の立件の可否についても、最終的な詰めの捜査を急いでいる。

 単行本はフリージャーナリスト、草薙厚子さんの「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)。鑑定医は奈良家裁から鑑定医に選任され、参考資料として長男や父親の供述調書の写しなどの提供を受けていた。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20071005k0000m040182000c.html

 地検は、当然、草薙さんの本を読んで判断したのでしょうが、同じ本を読んだ者の率直な印象として言えば、その本はとてもよくできたノンフィクションです。なぜ犯人の少年はパパを殺すことに決めなければならなかったのか、そして、パパはどのように子供に接してきたのか。少年やパパの調書を正確に引用することで、この本は、その真相に迫っています。調書を引用するに至った著者の葛藤なども、正直にこの本で語られていて、とても興味本位やのぞき見趣味で書かれたものとは思えません。ふだん、少年法の趣旨に反した報道をする週刊誌などがあっても、さすがに地検が立件をしたりということはありませんでした。では、なぜこの本の著者や鑑定医だけがねらい打ちにされるのか、そこのところがよくわかりません。
 普通に考えると、やはり地検のプライドやメンツでしょうか。調書が流出することで、彼らがどのような捜査を行い、どのような供述をさせているかが世に出てしまったわけです。そうすると、今後の捜査もやりにくい。そうした判断がなかったとはいえないでしょう。でも、そうした隠蔽体質は、裁判員制度が導入されようとしている現在にはおよそ似つかわしくありません。いや、裁判員がちょっとでもその体験を外に出せば、容赦なく守秘義務違反で立件するつもりなのかもしれません。
 言うまでもないことですが、こうしたジャーナリスト的な挑戦を取り締まることは、言論に対する重大な圧力です。それによって失われるものと得られるものを慎重に判断したうえで、捜査はなされるべきです。本件を立件することで得られるものはなんなのでしょうか。そこのところの意図がまったく理解できませんね。
 もう一つ、付け加えておきます。この本では、「諸悪の根源」は父親であるという理解に立っています。確かに、この本を読めば、父親がいかに非道なことをしてきたか、よくわかるように構成されています。ひょっとしたら、この父親(あるいはその母親ら親族)が検察庁にねじ込んだのでしょうか。父親と検察庁の利害がうまく一致したのかもしれません。
 今回の立件が実際になされるなら、かなり深刻な事態といえそうです。

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

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