なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

子供の犯罪の原因〜ゲームやビデオが悪いのか?

少年たちはなぜ人を殺すのか (文春新書 632)

少年たちはなぜ人を殺すのか (文春新書 632)

 日本では、子供が凄惨な事件を起こすと、すぐにその原因探しが行われます。そして、そのほとんどは、子供たちが持っていたホラービデオ、種々のゲームソフト、レイプもののポルノなどの影響によるものという判断がなされます。それはどうやら日本だけではないようで、この本で扱われているアメリカやイギリスなどでも、同じような傾向にあるようです。
 そして、おおくの事例では、そうした凄惨な事件を引き起こした子供は手に負えない悪魔的な存在であり、死刑を含めた厳しい処罰をもって押さえ込むのが正論であるという見方がなされています。
 本書は、数多くの凄惨な少年犯罪(大量殺人や肉親殺しなど)のケースを丁寧に取り上げ、分析しています。とくに、その少年がどのような両親の元に育ち、どのような生育環境にあったかについて、とても丁寧に調べて報告されています。そこから浮かび上がってくるものは、ほとんどすべての少年が幼児期に親から肉体的・精神的な虐待を受け、その影響下で犯罪が行われているという事実です。もちろん、その少年たちが、冒頭にあげたメディアを保有していることが多いことは著者も認めていますが、問題は、なぜ彼らがそうしたメディアに関心を持つようになってしまったのか、その理由をひもといてみなければ、彼らが犯罪を犯した本当の理由はわからないはずだと指摘しています。
 この本は、洋書の翻訳ですから、論じられている例は海外のものばかりです。ですが、たとえば日本の犯罪を考えてみても、いくつかの類似性がみられます。たとえば、光市母子殺害事件の犯人は、非常に不遇な家庭環境にあったことが知られています。また、少年犯罪ではありませんが、下記の本に取り上げられている3つの死刑事件(宮崎勤、奈良の小林薫、宅間)でも、父親による虐待に近いものがあったと説明されています。
 著者は、そうした分析を通じて、現在の司法制度がこうした問題に無関心であり、陪審もそうした点を軽視しがちであること、自分の子供を殺人犯に育ててしまわないためには、まず、親自身が子への体罰を一切なくすべきであることを切々と訴えています。
 こうしたまじめな分析を行っている本が、少年法を軽視したり、少年への厳罰を求める論調をとりやすい文藝春秋から出ていることにちょっとした驚きを感じます。文春が出していると先入観抜きに、丁寧に読み解いてみられることをおすすめしたいです。
ドキュメント死刑囚 (ちくま新書)

ドキュメント死刑囚 (ちくま新書)