湊かなえの「告白」を読んだ
- 作者: 湊かなえ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2010/04/08
- メディア: 文庫
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悪くないんじゃないでしょうか。アマゾン評価を見ていると、それこそ、激しく非難する人とそうでもない人と極端に別れていますが、そんなにひどいとは思わない。十分に楽しめると思いますよ。
以下、もしかしたらネタバレになるといけないので、未読の人はスルーしてください。
批判論者の矛先は、大きく分けて二つの方向に向けられています。その一つは、作中に登場するHIVのウィルスやキャリアに対する無知あるいは差別的な取り扱いが見られるという点。確かに、この小説をHIVのキャリアの人が見れば、かなり不快になるであろうことは想像に難くないところです。エンタメ作品だから何でも許されるというつもりはありませんが、HIVそのものを正面から扱った話でもないし、キャリアの生きざまはどうあるべきか、なんてことを考えるお話でもないのだから、この程度の扱いで「読むに耐えない」的な評価をするのは筋違いというか、了見が狭いと思わざるを得ない。そんなことをいうなら、世の中のミステリのほとんどは、間違った刑事手続きや裁判シーンであふれているけど、だれもそんなことを気にしないはず。
それから、もっと大きな批判を受けているのは、「終わり方が残酷」、「救いようがない」、「希望が見えない」というもの。おっしゃるとおり、確かに、そうした印象は受けます。しかし、ぼくがあえていいたいのは、なぜ残酷な終わり方ではいけないのかというところ。世の中の本は、すべてがハッピーエンドというものでもなければ、すべてに希望や愛が満ちふれているものでもないでしょう。アメリカ映画じゃあるまいし。もともと我が国の文化というのは・・・なんて話をし始めると収拾がつかなくなりそうなのでこのへんにしておきますが。それに、あまり指摘されていないことですが、最後の章は、主人公からある生徒への電話の中身で構成されています。ここで主人公の復讐劇が完成する(ことになっている)のですが、本当に主人公は、最後にしゃべったようなことをしたのでしょうか。ぼくは、そこは疑問だと思いますね。もちろん、狂気にかられて、そうしたことをやったかもしれない。しかし、主人公の性格からすれば、単に脅すためだけの目的で生徒にそう告げているだけかもしれません。そこらあたりは、読者に判断を委ねているともいえるわけで、単に「残酷なだけ」だったり、「救いがない」ものであるとも思いません。
こうしてみると、結局、ふつうのエンタメ作品としてよくできているし、誰もが認めるように、第1章の導入部分もおもしろく、一気に引き込まれます。本屋大賞だかミステリ1位とかそうした評価さえ気にしないのであれば、一気に読めるいい作品だと思いました。
ただ、2作目以降がどういう評価を受けるのか、どういうアプローチでくるのかというところは、それなりに興味があるところです。これだけで終わってしまうと、賛否分かれたままの作家ということになってしまいそうなので、次回作以降に期待したいところです。