石内都展「ひろしま Strings of Time」
開催中の写真展を見てきました。ミュージアムに併設されているカフェで書いています。西日が差し込んできて暑いです。あの夏の日も、こんなに暑かったのかもしれません。
石内が被写体として選んだのは、女性のもののドレスやスカートなどの洋服などが中心です。焼けこげた弁当箱やメガネ、時計といった男性的な物体は、ほとんど被写体としては登場しません。洋服たちも、全部が黒くなっているのではなく、なんとか原型をとどめており、60年のときを超えて、なお鮮やかな色彩を保っているものも多いです。そうした写真の中から浮かび上がってくるのは、戦争中にも残されていたわずかな華やぎであったり、あるいは終戦後に着るために大切に保存されていたであろうと思われるもの。これらの持ち主であったはずの女性たちの生命は、あの一瞬に、そして永遠に奪われてしまったのです。その後に残ったあるじを失った洋服たち。
こうして改めて見てみると、原爆が奪っていったものの多さに、残された悲しみの大きさに、改めて気づかされたといわざるを得ません。
写真に多少なりとも興味を持つものの視点からいえば、写真表現の奥の深さにも気づかされます。もし、こうした品物をダイレクトに展示したならば、よりインパクトが強まるでしょうか。そうした物たちが我々に語りかけてくるメッセージが、より強くなっていたでしょうか。おそらく、そうはならないと思います。石内の写真を見ていると、1枚の写真が持つ力の大きさに心をうたれます。洋服1枚にせよ、それにどのような光を当て、どの部分に陰を作るのか。洋服のどの部分にピントを当て、どこをどうクローズアップするのか。背景とのコントラストをどう表現するのか。1枚1枚の写真に込められた写真家の視線やメッセージというものに、知らず知らずのうちに引き込まれました。
8月6日を前に、多くの人に足を運んでもらいたいと感じました。
- 作者: 石内都
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/04/25
- メディア: 大型本
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