なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

とある消費者金融の大人げない対応

 とある消費者金融業者が、ある弁護士から送られてきたファクスの内容がひどいとして、弁護士会に懲戒申し立てをしました。そして、懲戒申し立てをした事実と、その弁護士が会社に送りつけてきたファクスを、pdfで公開しています。
 これについて、昨夜のtwitter上では、この弁護士のファクスの中身があまりに激烈なのと、字が汚くてめちゃくちゃになっていることが取り上げられ、「これはひどい」という批判やら嘲笑やらが渦巻いていました。
 しかし、もともとこのファクスは、その弁護士と業者の間でやりとりされたものです。この弁護士が、この業者についての誹謗や中傷をネットで公開したわけでもなければ、そうしたファクスをあちこちに送りつけたというものではありません。その意味では、いわば当事者間のやりとりの一つでしかなかったものです。
 これに対し、消費者金融業者側は、弁護士に対する懲戒申し立てという手段で対抗しました。懲戒申し立ては、何人でもなし得ることになっているし、正当な理由もないのに懲戒申し立てをした場合には、あとでその弁護士から損害賠償請求を受ける可能性もあるのですから、そのリスクを覚悟で、あえて懲戒申し立てをするという行動そのものは、穏当ではないと感じるものの、あえて声高に批判するようなものではないと思います。
 ぼくが問題だと思うのは、懲戒申し立てを行ったことを広く公開し、さらにはそのファクスまでpdfにしてホームページにのせるという行動についてです。こうやってインターネットにのせることで、当事者間でのやり取りにすぎなかったファクスが外部に流出し、誰でもみられる状態になってしまいました。また、その弁護士の実名も掲載されているので、日弁連のホームページなどで検索をかければ、すぐにその連絡先がはっきり分かってしまうわけです。
 こうした対応は、企業の自衛手段としては相当ではないかというご意見もあるようです。しかし、自衛手段というのであれば、弁護士名を匿名にすることでも十分なのではないでしょうか。あるいは、この弁護士に対する懲戒手続きが終了し、懲戒処分がなされた後で、その結果報告として行うことで足りるのではないでしょうか。
 もともと、業者が公開する以前には、そのファクスは業者の手元にあっただけで、それによって業者の信用が失墜したとか、業務が妨害されるということはなかったはずです。担当者が気分を害したり、おこったりすることはあったにせよ、それは社内的なものであって、外部に何らかの悪影響が生じるものではなかったはずです。
 そうしてみると、この業者の対応は、ちょっと行き過ぎなのではないかと思います。たとえば、ある弁護士が、誰かからひどい文書を送りつけられたとして、損害賠償訴訟を提起したとしても、それに勝てるかどうかは分かりません。公然性や不特定多数性にも欠けているし、それまでのいきさつがいろいろあるかもしれないからです。そのとき、もし、その弁護士が、その文書を、当事者の実名入りでブログやネットに公開したとしたら、それでも「自衛手段」として許されるのでしょうか。ぼくはそっちのほうがよほど弁護士としての品位を欠くものだと思います。
 今回の消費者金融業者については、以前から、その業務の方法について、いろいろ批判がなされてきたものです。ですが、そうした業者に対する批判をこの際、措いておくとしても、やはり、上記のようなpdfの公開については、それ自体が問題であるし、やり過ぎだと思うので、ネット上では少数意見なのかもしれませんが、あえてここに書いておくことにします。
(深夜に追記)
 尊敬するとある先生から、このファクスはどうみても懲戒ものだし、弁護士として行ってはならないことをしたと言わざるを得ないのでは、というご指摘がありました。
 ぼくも、この弁護士が書いたファクスに問題がないとはとても思えないし、それで懲戒を受けるのはやむを得ないのではないかと思います。
 ただ、ぼくの問題意識は、ちょっとだけずれているのかもしれません。ぼくが言いたいのは、「懲戒に値するようなファクスが送られてきた」として、それを今の時点でその弁護士の実名入りで、ファクスそのものを公開してしまうことの是非、というところにあります。「殴られたら殴り返す」、「気に入らないものは晒し者にする」という発想で対応することに問題はないのでしょうか。企業の社会的責任とか、コンプライアンスとかいろいろ言われますが、そうした面から見ても、この業者のやった行動は全く問題がないといえるのか。
 そうした観点からのご意見(もちろん反対意見でもなんでも)をお待ちしています。