なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 押尾判決は妥当?

 一緒に合成麻薬を服用して容体が急変した女性を放置して死なせたとして、保護責任者遺棄致死など4罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判で、東京地裁(山口裕之裁判長)は17日、懲役2年6月(求刑・懲役6年)の実刑を言い渡した。遺棄致死罪の成立は認めず保護責任者遺棄罪を適用したが、判決は「芸能人の地位や仕事、家庭を失いたくないという自己保身のために被害者を保護しなかった」と被告を厳しく非難した。【伊藤直孝】

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100918k0000m040017000c.html

 毎日新聞のサイトには,判決要旨も全文が載っていて,一通り目を通しました。ポイントは,被害者の異変に気づいた時点ですぐに救急車を呼んでいたら,被害者が救命できたかどうか,ということろ。
 これについて,判決は,専門家の判断も分かれていることを挙げて,救命できたことの証明が検察官によってなされていない以上,致死の責任を問えない,と判断しました。
 この結論は,きわめて穏当でいかにも裁判員裁判らしい,いい判決だと思います。従来,ある争点について,検察側の専門家の判断と,弁護側の専門家の判断が分かれる事件というのは,決して少なくありませんでした。そのようなとき,職業裁判官は,「被告人の弁解は信用できない=弁護側の専門家の意見も信用できない」という余談に基づいて,無批判に検察側の専門家の意見を採用したり,弁護側の専門家の意見に難癖をつけたりして,強引に事実認定をすることが少なくなかったのです。
 今回は,裁判員という素人が判断に加わっていただけに,微妙な問題については,「疑わしきは被告人の利益に」という大原則に戻って判断をしたものと評価できます。被害者が亡くなっているのに2年6月の実刑に過ぎないというのは,いささか軽いという印象もありますが,「致死」自体の責任を問わないのであれば,当然の帰結といえるでしょう。
 一部では,押尾被告の不合理な弁解態度に対する反感から,「求刑を超える判決もあるのでは」なんてうがった見方もあったようですが,疑問に素直に向きあって判断した判決として,評価できるのではないでしょうか。
 検察官が控訴するのかどうかは不明ですが,裁判員の裁判を尊重するというのであれば,控訴は見送って欲しいところです。