なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

今日の裁判例(その20)〜医療過誤訴訟と患者側の過失相殺

○幼児に対する結核髄膜炎の対処が遅れたために、患者に重大な後遺障害が残存した事例について、適切な治療が行われていた場合に後遺障害が軽減されたであろう程度を推し量ることは困難であるとして、割合的な因果関係の認定がなされ、損害の4分の1についての賠償が命じられた事例。
 幼児の親が、BCGの接種をさせていなかったとしても、それを患者側の過失として斟酌して過失相殺を行うことが不適切であるとされた事例。
福岡高裁平成20.4.22判例時報2028号41頁)

(コメント)
 前回、紹介した裁判例では、医師の指示に反して乳児をなかなか診察に連れて行かなかった親の過失を、過失相殺の対象としていました。気になったので、同種の裁判例をちょっと調べてみたところ、この裁判例に遭遇しました。
 このケースでは病院側から、親が子にBCGを受けさせていなかったことが結核の原因であり、そのために子が結核髄膜炎になったとして、過失相殺をなすべきだと主張していました。本判決では、上記のように、因果関係を割合的に判断するという特殊な手法を用いていることもあって、さらに過失相殺を行うことに慎重になったものと思われます。
 医師が、自分の過失を棚に上げて、親を攻撃して賠償額を減らそうとするのは、かなり違和感があります。その意味で、この裁判例の結論はおおむね妥当範囲にあるといえるのではないでしょうか。