なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

喉に小骨を刺せ

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 とある弁護士さんのブログを読んでいたら、弁護士が裁判所に出す書面作成の注意点が書いてあった。まったくそのとおりだと思いました。書面を書くたびに思い出せるよう、自分用にリンクも張っておきます。
 ちょっと前に書いたことがあるかもしれない話だけども、それを読んで思い出したのでまた書いてみます。
 勝つか負けるか、分からない事件は、弁護士も燃えます。書面の量も増えるし、気合いも入ります。いろいろ判例を調べたり、証拠をつぶさに引用してみたり。
 では、負けることが分かっている事件はどうか。たとえば、どうしても乗り越えられない理屈の問題があったり、裁判官がすでに心証を固めていて、「あんた負けよ」という態度を如実に示していたり。あるいは、高裁で勝っていたのに、最高裁が弁論を開くと言ってきたとき。そんなとき、それでも正義は我が方にある、と思ったらどうするか。どういう書面を書けばよいか。
 これはある意味、永遠の課題ではあるけれど、ある先輩の弁護士が教えてくれました。「裁判官にイヤ〜な思いをさせるんだ。喉に小骨が刺さって取れないような、思い出すとちょっと不愉快になるような、そうした思いを味わわせてやらないとだめ。あっさり負けるなんて愚の骨頂」なのだと。
 それでその弁護士はどうしたか。書面の締めくくりに、「この裁判で問われているのは、我々の主張の当否ではない。実は、問われているのは、裁判官、あなたがたの人権感覚そのものなのだ」と書こうとしました。「そんな変な判決を書くと、将来、物笑いの種になるよ」ということを彼は言いたかったようです。
 ところが、弁護団会議でその意見に猛反対が出ました。普通の良識ある弁護士たちは、「裁判なんだから、我々の主張の是非が問われているのは当然だ。裁判官にけんかを売るようなまねは、たとえ負けることが分かっていてもやるものではない」と主張しました。そのときに、彼が言ったのが、最初に書いた「裁判官にイヤな思いをさせないとだめだ」ということでした。
 結局、多数決で彼の意見は没にされたのですが、ぼくは彼の意見のほうを推したい。
 お行儀のよい弁護士ばかりではつまらないですから・・・・。