なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

消費者庁構想に反対する財界の真の思惑とは

 政府が進めようとしている消費者庁構想を、いつものように財界がつぶそうと躍起になっています。
 そうした財界の雰囲気を代表する日経の関連記事を見てみましょう。

だが、この消費者庁という「新組織構想」に対しては警戒の声が少なくない。もちろん、取り締まり強化を恐れる悪質事業者や、権限を奪われかねない既存省庁からのものではない。そんな"警戒"は論外である。むしろ注目すべきは経済界の中心、日本経済団体連合会の中から聞こえる指摘だ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080529/159754/?P=1

 経団連がまるで良心的な企業の集団であるかのごときお花畑的書き出しはともかく、財界からどのような声が出ているのか、読み進んでみます。

 御手洗冨士夫会長は会見では「消費者行政の一元化は産業界としても歓迎する」と述べている。だが、これは、官邸との共同歩調を重んじる表向きのものと考えた方がよさそうだ。経団連の別の幹部は「消費者保護という名目で、正当な経済活動が阻害されるのではないか」と懸念する。
(中略)
 象徴的なのは、改正建築基準法や改正貸金業法金融商品取引法、いわゆる「3K規制」と呼ばれる法律だ。いずれも消費者保護に関わる法律だったが、規制に萎縮した企業が相次ぎ、日本経済に想定以上のマイナス影響を与えた。

 耐震偽装耐火構造を偽装した建材、詐欺的なマンション販売、利息制限法を無視した異常な高金利、犠牲者が相次ぐ商品先物取引などが、正当な経済活動なんでしょうか。
 こうした違法な業者に対する取り締まりは、消費者庁ができる前(つまり今)でも行われているのに、なぜ、消費者庁構想そのものに反対するのでしょうか。
 要するに、消費者の無知につけ込んで収益を上げるビジネスモデルが破綻するのが怖いだけなのでしょう。
 そして、記事は、消費者の保護よりも自立を重視すべきであるとして、次のように結びます。

 消費者行政推進会議の最終報告書は6月上旬にまとまる。早ければ今秋の国会で消費者庁設置法案が提出され、2009年にも新組織としてスタートする。その過程の中で、消費者行政を巡る議論が現在の保護重視から自立の方向にも進化し得るのかどうか、注目である。

 この記事の致命的な欠点は、消費者の自立が肝心といいつつ、自立を促すための方策にどのようなものがあるのか、まったく具体例を述べていないところにあります。これでは、「消費者保護」に反対したいだけで、「自立」の中身さえ考えていないのだと批判されてもやむを得ないでしょう。
 実際のところ、耐震構造や耐火構造の偽装を消費者が自立して見抜くなんてことは不可能だし、高金利をとる業者と渡り合って金利を下げさせる交渉をするのも簡単ではないでしょう。商品先物取引にいたっては、いったん始めた取引をやめることさえ難しい(やめさせてもらえない)のが現状です。こうした中で、消費者の自立を求めることは、実は、消費者が企業の言いなりになることを求めているに等しいということです。
 真に消費者が自立を果たすことができたなら、もともと高金利の業者や先物取引には決して手を出そうとはしないでしょうし、安いだけで中身の伴わない建て売り住宅やマンションなどは、決して売れなくなってしまいますよ。消費者の自立とはそういうことです。だからこそ、この記事には、「自立」の具体的な中身に触れられないというわけです。
 財界としては、消費者が真に自立をされるのも困るが、消費者保護が唱われて従来のビジネスモデルが壊れるのも嫌だという、だだっ子にも等しいような訴えをしているというのが現状なのではないでしょうか。