なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

広島高裁はマスコミに媚を売りすぎだ

 今回の広島高裁の対応は、まったくけしからんと思っています。
 というのは、別に今回の裁判の中身の問題ではなく、報道をめぐる裁判所の態勢の問題です。
 昨日も書いたように、裁判所の敷地の中に、多くのテント村ができました。そこは、報道各社の即席の専用ブースと化し、実際にその特設スタジオから、キャスターやどこかで顔を見たことのあるコメンテイターが実況放送をしています。いったいこれは、オリンピックかmacworld expoかと思うような過熱ぶりでした。
 彼らが多くのテントを立て、中継車を駐車していたスペースは、いつもは駐輪場や駐車場として使われているところです。広島高裁は、彼らのために特別の便宜を図り、彼らが大々的に報道をするのに最大限の援助をしたものです。こうした動きは、これまで広島高裁でとられたことはありませんでした。むしろ、裁判所の中で撮影をするなんてとんでもないことで、キャスターたちは、裁判所の門の外で、遠慮がちに中継をやっていたものです。下のコメント欄に登場する西山事件判決のときも、もちろん本件の第1次控訴審のときも、マスコミのためにテントを立てさせたなどということはありませんでした。いったい、裁判所はいつから、こうした過熱報道に直接、手を貸すようになったのでしょうか。
 考えられるのはただ一つ。裁判員制度の導入が1年後に迫っているということです。裁判員制度は、まだまだ国民の理解が得られておらず、世論調査でも、ほとんどの人が裁判員となることに心理的な抵抗を抱えています。裁判所は、マスコミと仲良くして、裁判員制度をもっとPRしてもらいたいということばかりを考えているようです。実際、裁判所と検察庁は、この問題に多額の予算を投じて広報しており、あちこちに説明や宣伝に出歩いています。いまや、裁判所長や検察庁の長官・検事正の仕事の多くは、こうした街宣活動にあるといっても過言ではない状態なのです。
 おそらく、広島高裁も、ここが裁判員制度や刑事裁判のあり方を国民に広く訴える絶好の機会だと考えたのではないでしょうか。ここでマスコミといい関係を築いておけば、裁判員制度の導入時にも好意的な報道をしてもらいやすい、などと考えたのではないでしょうか。そうでなければ、裁判所がこれまでの姿勢を180度転換するなんてことは考えられないのです。そしておそらく、こうした特別扱いは、広島高裁だけで判断できることではありません。おそらく、最高裁に事前にお伺いを立て、その了承を得てやっていることだと思われます。
 そうした意味で、今回の裁判を劇場型のショーに仕立て上げた最大の功績は、裁判所にあるものと考えています。そこまでしてマスコミを味方にしておきたいのでしょうか。