なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 刑務所における医療の水準はどうあるべきか

 山形刑務所の健康診断で医務官が肺がんの兆候を見落としたとして、同刑務所に強盗致傷の罪などで服役していた仙台市の男性(55)=治療のため刑の執行停止、釈放=が国に対し、約7400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審は13日、国が男性に4200万円を支払うことで仙台高裁(小野貞夫裁判長)で和解が成立した。

 一審仙台地裁判決は昨年10月、医師の過失を認め、国に約4850万円の支払いを命じた。国側は内容を不服として控訴していたが、先月15日に開かれた公判で裁判所から和解勧告があり、勧告内容などを検討した結果、「診察の際、落ち度があったことは否定できない」と過失を認め、和解勧告を受け入れることを決めた。

 一審判決によると、男性は服役中だった2004年10月、胸部エックス線検査で左肺に陰影が見つかったが、医師は肺がんの判別に必要な検査をしなかった。その後、外部の病院で末期の肺がんと診断された。

 和解成立を受け、山形刑務所は「診断の際に、肺がんの可能性を疑うべきだった。今後は適切な医療措置に努めていきたい」とコメントした。

http://yamagata-np.jp/newhp/kiji_2/200802/14/news20080214_0215.php

 刑務所では、ガンや肝炎などの治療がはなはだ不十分です。こうした病気は、早期発見・早期治療をすることが必要なはずですが、刑務所でタイムリーな治療が受けられたという話はほとんど聞きません。逆に、今回のケースのように、必要な検査や治療が受けられなかったために、受刑者に回復不可能な事態が生じるという例は後を絶ちません。
 問題は、医師の質がよくない(たとえば徳島刑務所の松岡医師はその典型例)ということの他に、医療予算が限られているという点にあります。
 われわれは、病気になれば一般の病院に通い、ほとんどの場合、健康保険を使います。したがって、われわれの負担は少なくて済みます。しかし、刑務所では、健康保険という概念がありません。すべて刑務所の予算でやりくりします。注射一本、薬1回分など、あらゆる治療や検査が刑務所の予算でまかなわれます。高価な薬は出せないし、まして、病気かどうか分からない人に、高度な検査などしてはいられない、というわけです。
 しかし、一般の病院で受けられる治療が、なぜ刑務所に入ったとたんに受けられなくなるのでしょうか。受刑者は、刑罰として拘禁され、強制労働に服しなければなりませんが、一般人よりも劣悪な医療で我慢しなければならないという理由はないでしょう。そうであれば、「懲役刑」ではなく「放置刑」とか「病死刑」という新しい刑罰を作るべきです。もちろん、そんな刑罰を作れば、世界の笑いものになることは目に見えていますが。