なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

無期懲役刑の重さについて

 コメントをいただいたid:youhei2007さんの記事をざっと読ませていただきました。内容が盛りだくさんで、とても全部を把握したわけではありませんが、世の中の誤解を鋭くついた論考だと思いました。
 なんといっても、弁護士ですら、無期懲役の実際を誤解している人が多いです。
「模範囚なら10年たったら出られる」
 というのが典型的なそれ。
 さすがに弁護士の場合、仮に仮出獄で釈放されても、その後に一生、保護観察がついて回るということは理解しているのが通常です。でも、この「10年で出られる」説は一般の弁護士の中でも未だに根強い支持を得ているし、場合によったら、検察官が堂々と論告・求刑の中でそのように説明したりします。裁判員制度が導入されようとしているとき、このような虚偽の説明をしたなら、裁判員のほとんどは無期懲役ではなく死刑を選択してしまうのではないでしょうか。そして、弁護士もそれに対する反論ができないとしたら。
 データについては、id:youhei2007さんの記事を見ていただきたいのですが(失礼ですが、それが正確かどうかの検証までは当方では行っていません)、ぼくが知っている限りで強調したいいことは、現在、刑務所に入っている向きの受刑者は1000人を超えていて、そのうち、仮出獄で社会に出る人は、年間、一桁程度しかいないということ。最近では、一人だけという年もありました。
 今や、無期受刑者のほとんどは、仮出獄の見込みさえたたず、何十年と刑務所内で過ごしているのです。
 ですから、ぼくの目から見れば、無期懲役刑は事実上、終身刑として作用しているのであって、「無期受刑者には仮出獄の可能性がある」という議論は、「可能性」がゼロではないという意味で間違ってはいないものの、「10年で出られる」なんて現実はまったくなく、それこそ世論をミスリードする議論でしかないのです。
 そして、刑務所における過酷な受刑生活の被害をもろに受けているのが無期受刑者です。
 有期懲役の受刑者は、最悪でも、満期まで我慢すれば外に出られます。しかし、無期受刑者は、中でまじめに過ごして、超難関の仮出獄の可能性に賭けるしか、社会復帰の望みはありません。なので、無期受刑者の多くは、理不尽な処遇を受けたとしても、それに不服を申し立てることもなく、ひたすらそれに従っています。なぜなら、不服を申し立てるということは、刑務所の論理では「反省が足りない」ということをを意味しており、そのような受刑者には、まず、仮出獄の可能性はないからです。
 反面、仮出獄をあきらめた受刑者は、将来の望みがない故に、刑務官に対して反抗的になりやすいとも言えます。いわゆる、やさぐれた状態になってしまうのです。ところが、彼らは、社会に戻って刑務所で受けた仕打ちを世の中にばらす、ということができません。ですから、かえって、刑務官は、彼らを非人間的に扱ってしまいがちです。問題があっても、闇から闇に葬り去ることが可能だからです。もちろん、無期受刑者の中でも、親族がしっかりサポートして、面会に頻繁に訪れているような場合、刑務官は、それほどひどい処遇をしたりはしません。面会の際に外にばらされると困るからです。
 結局、無期受刑者は、その地位がまさに「無期刑」であるが故に、他の有期懲役受刑者に比べても、劣悪な環境におかれています。
 裁判員制度が始まろうとしている今こそ、そうした現実をもっと多くの人に知ってもらわなければならないと思います。