大丈夫な日本
- 作者: 福田和也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/04
- メディア: 新書
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ですが、著者は、文芸評論をホームグラウンドとしている福田和也です。政治家でもエコノミストでもありません。なので、そうした政策論を縦横無尽に語る本だと思って買うと、ちょっと肩すかしを食うかもしれません。
もちろん、この本でも、福田和也の本領は十分に発揮されています。日本をはじめ、中国や西欧の歴史を掘り起こし、各種のテクストを豊富に引用して語る福田節は健在です。
彼は、今までの近代社会は、「無限」をキーワードとして、無限の成長や無限の自由などを目的として発展してきたと指摘します。しかし、環境問題をはじめとして、もはやわれわれの社会は「有限」であることを自覚して活動をする時期に来ており、いわば「近代の終わり」が訪れているとしています。そして、そのような「有限」の社会のもとでは、「成長」や「発展」よりも「存続」や「持続」を念頭におくべきであるとして、そのモデルを江戸時代に求めています。
そうして福田氏は、近代の大量生産、大量消費のモデルと決別して、生活文化、自分らしい生活、ゆるやかで濃密な時間を志向していくべきではないか、としています。そういう社会になることができれば、日本の将来も大丈夫だ、ということです。
いまさら、江戸時代と同様のライフスタイルを送ることは不可能であるにしても、従来のモデルから一歩下がって、過去から学ぶべきだという福田氏の指摘には、耳を傾けざるを得ないところがあります。
この本は、新書でお手軽に読める分量ではありますが、内容的には濃く、引用の的確さ、豊富さなども相まって、とても充実した内容になっています。最近は、成功本とかミステリとか、通俗的なものばかり読んできましたが、こうした、いい意味での教養主義的な書を読むのも、興奮するものがありました。この本で福田氏が引用していた本のいくつかについても、手に入れてみようかと思っています。