なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 終身刑という刑罰

終身刑新設、全国で訴え 欧州男性 17日京を出発
 2年前に宮崎市で自宅を放火されて妻と娘を亡くしたストッキ・アルベルトさん(50)=スイス、イタリア国籍=が、終身刑の新設や被害者支援、時効の廃止を訴えて、全国を大型バイクで回る。今年5月に全国1周を終えたばかりだが、1人でも多くの人に共感してもらいたいと、2度目の全国1周へ出かける。17日、留学生時代を過ごし、現在居住している京都市を出発する。
 2004年5月27日未明、ストッキさんは妻公子さん=当時(46)=の悲鳴で目を覚ました。2階から飛び降りた直後に、部屋は燃え落ちた。公子さんと二女友理恵さん=同(12)=は亡くなった。
 犯人は逮捕され、昨年6月、宮崎地裁無期懲役の判決を下した。犯人の男は以前にも放火などで数回服役しているという。ストッキさんは「無期懲役は刑務所から出てくる可能性がある。犯人は再び犯罪をおかすかもしれない」として、「刑務所から一生出られない終身刑を新設すべきだ」と訴える。

 京都新聞の記事です。
 お気持ちは分からないではないですね。
 ただ、前にも書いたことがありますが、実際に「無期懲役」は「終身刑」にほぼ等しくなっています。そのことは、ほとんど知られていないと思われるので、しつこいようですが、ふたたび書いてみます。
 まず、「無期懲役」は、その名のとおり、「無期」限に懲役を科されます。ただ、ごく例外として、「仮釈放」が許可されることがあります。無期懲役受刑者の場合、10年を経た段階で、この仮釈放が可能になります。そこから、「無期でも10年立ったら出られる」などという俗説が生まれてきます。
 なるほど、法律上は、そのような定めになっていますが、では実際に、法はどのように運用されているのでしょうか。現在、無期懲役の宣告を受けて服役している受刑者は、全国で1300名くらい。このうち、平成16年度中に仮釈放が許された受刑者はわずか1名。しかも、この受刑者にしても、20数年間、服役をしていたのです。確率にして1300分の1です。もちろん、年によって多少の変動はありますが、このような厳しい運用がなされる現状は、そう変わることはないでしょう。
 このように、「無期懲役」は事実上、「終身刑」として運用されています。重ねて「終身刑」を導入しなければならない理由があるでしょうか。「無期懲役」受刑者は、ものすごい低確率ではあっても、仮釈放が受けられるかもしれない、という希望があります。それが本人の更生の意欲につながっていきます。文字通りの終身刑を導入して、どんなにまじめにやっても決して外に出られない、と知ったとき、彼が本当に更生することがあるでしょうか。
 それでも終身刑を導入しようというなら、恩赦のシステムをもっと活用できるようにすべきです。今では恩赦なんてありえない話です。せめて、「終身刑だけど恩赦がある」という一縷の望みでもあると、受刑者も前向きになるのではないでしょうかね。
 前向きにさせる必要などない、という意見もあろうかと思いますが、それなら奴隷や家畜と同じです。そこを否定することから、現代の世の中がスタートしたのではなかったでしょうか。