なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

姉歯逮捕は別件逮捕か?

 まずは、朝日新聞ニュースを見ましょう。

 耐震強度偽装事件で、警視庁と千葉、神奈川県警の合同捜査本部は26日午前、元建築士姉歯秀次容疑者(48)ら2人を建築士法違反と同幇助(ほうじょ)の疑いで逮捕した。あわせて、木村建設社長木村盛好容疑者(74)ら4人を建設業法違反の疑いで逮捕するとともに、経理担当などの役員2人を書類送検イーホームズ社長藤田東吾容疑者(44)ら2人を電磁的公正証書原本不実記録などの疑いで逮捕した。姉歯容疑者ら2人は名義貸しの容疑を認めているという。
 姉歯建築士が構造計算書を偽造したことに端を発した刑事責任追及は、まず「偽装」そのものとは直接のつながりがない容疑からの立件となった。捜査本部は設計、施工、確認検査というそれぞれの立場でかかわったキーマンらの逮捕を突破口に偽装事件の全容解明を進めるとみられる。

 耐震強度偽装とはなんの関係もない罪がずらりと並んでいます。容疑を認めていて、逃走の恐れもないのだとすれば、そもそも逮捕の必要性があったかどうかも疑問ですね。
 捜査本部の筋書きとしては、まさに朝日が指摘するとおり、とりあえずこうした罪で捕まえておいて、「本丸」の事件の解明を進めようというもので、いわゆる別件逮捕といわれても仕方がないのではないでしょうか。こうやって微罪で逮捕して大量の資料を押収しておき、そこから新たな犯罪の種を見つけて次々と別の事実で逮捕・勾留を続けていくというやり方は、古典的ではあるにせよ、被疑者に与えるダメージは強烈なものです。つまり、彼らに「いつまでこうした勾留が続くか分からない」という恐怖感を与え、そうした恐怖感を背景に自白を迫ろうとするのです。
 捜査本部が、耐震強度偽装事件でそれなりの証拠を集めているなら、現段階で堂々と逮捕状を裁判所に請求し、その容疑で逮捕したらどうでしょうか。名義貸しとか、公正証書不実記載とか、どうでもいい罪で逮捕して・・、というのは、捜査側の時間稼ぎやそれに伴う押収で証拠を集めようとする、すっきりしないものを感じざるを得ません。
 より話を大きくしていえば、そもそもこうした捜査に伴う押収手続きというのは、きわめていい加減です。微罪にもかかわらず、一見して犯罪とは関係のなさそうな大量の資料を押収して、それを新たな犯罪探しの材料に使うという手口は、古くは公安関係(過激派など)の事件、最近ではオウムなどの事件でも用いられたもので、本来のあるべき姿とはかけ離れたものです。
 今回は、社会的にも注目を集めた事件だけに、こうしたやり方が批判されることも少ないのだと思いますが、別件で無理やり逮捕すするというやり方はやめたほうがいいと思いますね。
 ヒューザーの社長だけは別件で逮捕するネタさえ見つからなかったということなんでしょうか。こうした不公平感が出てくるのも、捜査本部が別件逮捕で幕を開けたことに由来するものです。

 産経の別の記事には、いみじくも次のような記載があります。

 こうした中、「あらゆる法令の適用」を捜査方針に掲げ、関係者の聴取や押収資料の分析などから、姉歯容疑者一級建築士の名義を知人のデザイナーに貸していた建築士法違反容疑が新たに浮上。同法が「懲役一年以下または罰金三十万円以下」と、より重いことから、同法違反での立件を先行させた。

 「被害者の感情や国民世論を考慮しなければならない」(警察幹部)

 捜査はこの点に主眼が置かれた。

 なるほど被害感情や世論も大事かもしれませんが、本来なら名義貸し程度で逮捕されることもなかったわけで、警察が本当に世論や被害感情に応えようとするなら、別件逮捕ではなく、堂々と本丸である詐欺罪などでの逮捕を行うべきではないのでしょうか。