なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

拘置所に未決勾留中の被告人が、雑巾を嚥下して自殺したことにつき、拘置所職員の医師及び看守に安全確保義務違反があったとして、国の損害賠償責任が認められた事例

 長年、うつ状態に苦しめられ精神科に通院して特定の薬(リタリン)の処方を受けてきた被告人が、東京拘置所に移されたとたん、その薬の処方を打ち切られた。被告人は、その後、うつ状態に陥り、看守に自殺願望を表したメモを手渡した。拘置所側は、被告人の居房から、タオル等は撤去したものの、雑巾を撤去しなかった。そのため、被告人が、夜間、それを嚥下して自殺をしたというもの。
 裁判所は、拘置所の医師が、過去の病歴や治療歴を無視して、患者がそれまでに受けてきた治療内容を大幅に変更したり中断したりする措置を行うことには慎重でなければならないとして、医師の過失を認めた。その際、未決勾留の特殊性(医師は患者に対して長期的な観点からの治療を行う立場にないこと、患者において外部の医師を選択して治療を受ける機会が存在しないこと、そのため、患者としては拘置所の医師の治療を唯一絶対的なものとして受け入れる他はないこと、などを考慮している。
 単なる医療水準論とか医療過誤論にとどまらず、拘禁医療のあり方を見据えた判決として、評価に値するものではないかと思う。
 控訴がなされているようなので、控訴審の判決が注目されます。