なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 帳簿の「提示」

 ところで、昨日紹介した最高裁判例は、税務署員に「提示」をしなければならない、といっています。しかし、法律上は、上記のとおり、「保存」があればいいとされています。このギャップはどこからくるのでしょうか。
 裁判所や税務当局は、「保存」をいわば拡大解釈し、「提示できる状態で保存しておき、要求があればすぐ提示しなければならない」と解釈しています。保存しているかどうかということは、結局、提示を受けて調べてみないとわからない、というのがその理由です。税務調査を拒否しておいて、「保存しているから仕入れ税額控除を認めてくれ」というのは、虫が良すぎる、ということでしょう。
 しかし、問題は、そういう解釈は明らかに法律の文言に反するとともに、税務当局の恣意的運用の余地を残す、ということです。あり得ないことだと思われるでしょうが、税務署は、納税者が帳簿を提示しても、見ようとしないことがあるといいます。それは、時間がないとか、もともと納税者側が対立的・非協力的だとか、第3者の立ち会いを要求した場合だとか、いうときに、「提示がなかった」として扱われることがあるというのです。
 もちろん、小職自体は、そのような経験はありませんが、依頼人からそのような扱いを受けたという相談はときどきあります。帳簿の量が多くなると、税務署員もその場でのチェックができませんから、「持ち帰らせてくれ」なんてことになるのですが、その際、それを拒否したりすると、そういうふうに扱われる可能性が高くなるようです。