なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

池内紀「ひとり旅は楽し」(中公新書)

 この本のことは、今までの日記でちょこちょこ触れてきましたが、私の中で「おすすめ本」という評価を獲得しましたので、みなさまにご紹介させていただきます。
 ドイツ文学者である著者が、これまで経験してきたひとり旅について書いたエッセイ風の小文をまとめたものです。新書判で8ページほどの小作品が23編ほど集められています。
 この本の何がいいかといえば、何をおいても、その旅情あふれる文章そのものにあります。以前の日記で、センテンスが短く、無駄な接続詞がない、というようなことをご紹介しましたとおり、非常にテンポがいいです。その一方で、理屈っぽい接続詞がないために、文と文の間に味わいがあります。その「あいま」のおかげで、読者は著者と一緒に旅の空間にいるような気になってくるのです。
 著者は文学に精通しているだけあって、ここで語られているのはいわゆる旅のノウハウの類ではありません。著者は、いろいろなところを旅しながら、それに関係するさまざまな文学作品へ思いを寄せていきます。その作品の大部分は、小職にとって未読のものばかりですが、適切に引用された作品を通して、われわれ読者にもその作品の作者の息づかいを身近に感じることができるようになっています。