なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

中国人船長の釈放はやむを得ないものだから

 東シナ海尖閣諸島沖で中国漁船と石垣海上保安部(沖縄県石垣市)の巡視船が衝突した事件で、那覇地検は24日、同保安部が公務執行妨害の疑いで逮捕した中国人船長、せん其雄(せん・きゆう、せんは憺のつくり)容疑者(41)を処分保留のまま釈放すると発表。船長は25日未明に釈放され、チャーター機で離陸した。同地検の鈴木亨次席検事は24日の記者会見で、巡視船側の被害が軽微だったことなどに加え「わが国国民への影響と今後の日中関係を考慮すると、これ以上、身柄の拘束を継続して捜査を続けることは相当でないと判断した」と説明した。一方、仙谷由人官房長官は「検察から釈放するとの報告を受け、了とした」と述べ、政治介入はなかったとの立場を強調した。

asahi.com(朝日新聞社):尖閣沖の衝突事件、中国人船長を釈放 「日中関係考慮」 - 尖閣諸島問題

 この1週間,いくつか日記に書いておきたい時事ネタが尽きませんでした。全部が検察庁がらみ。いささか情けない。
 さて,まずは中国人船長の件をちょっと書いてみます。
 本件では,船長を釈放したことについて,外交的な敗北だと指摘する声が少なくありません。釈放することを負けだと考えれば,まあ,そのとおりなんでしょう。
 しかし,それでは,このまま船長の勾留を続けていたとして,この先,どういう展開がありうるのでしょうか。1)起訴して実刑。そのまま1〜2年くらい刑務所に入れる。2)起訴して執行猶予。国外退去。3)勾留満期(29日)に釈放して国外退去。ざっとこの3通りでしょうか。
 「毅然として対処する派」の人たちは,1または2の展開を求めていたのかもしれません。しかし,1なら,その刑の期間中,ずっと中国当局は騒ぎ続けるだろうし,日中の経済関係もかなりのダメージを受けることになるのでしょう。2としても,あと1ヶ月くらいはこの状況が続くことになる。3ならあと5日。このように考えていくと,結局,可能な限り早いうちにほこを収めようという判断も,それほど間違っていないような気がします。まして,邦人4名が不当に拘束されているという情報があるなれば,こちらが先にカードを切ってしまうというのも選択肢としてはありうることだと思います。
 さて,釈放について「検察庁が独自に決めた」として政府高官が「それを尊重する」などというポーズを取っていることにも批判が集まっています。釈放するなら,ぶつかられた時のビデオを公開して,「我が国は悪くないんだけど,特別に釈放してあげるよ」というアピールをもっと前面に出すべきだという主張があります。
 しかし,4人の邦人の釈放も決まっておらず,中国が謝罪と賠償を求めてきているという情報もあります。「ぶつかってきた時のビデオ」という物証は,最後にとっておいてもいいのではないでしょうか。全部のカードを使ってしまったら,それこそあとはひたすらスルーするしかなくなってしまいます。邦人の開放やレアアースの禁輸解禁とか,そうした時期を見計らって,検察がおもむろに「起訴猶予」にする。その際に,ビデオも公開して正当性をアピールしておく,くらいの筋書きを考えているのではないでしょうか。
 そういう意味で,今回の政府の対応は,もちろん,それがベストだったということはできないかもしれませんが,それなりの対応だった評価してもいいんじゃないでしょうか。