なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

今日の裁判例(その12)

◎東京拘置所に勾留されている被収容者が脳梗塞を発症した事例について、速やかに外部病院へ転送されていれば重大な後遺症が残らなかった可能性が存在することが証明されていないとして、国家賠償責任が否定された事例。
 最高裁平成17.12.8判例時報1923号26頁
 (コメント)
 1審は賠償責任を認めたものの、2審の東京高裁がこれを破棄。最高裁では5人の裁判官のうち3名が上記の意見だったものの、2名は反対意見を書いたという微妙なケース。
 多数意見は、転送されていれば重大な後遺症が残らなかった可能性が高いことについて、原告側(被収容者側)で立証すべきであるとしたものです。しかし、事実経過を見てみると、日曜日の朝、被収容者の様子がおかしいことに気付いたのに、外部病院への転送を決めたのは翌日の午後になってからです。脳梗塞でこの手おくれはどう考えてもおかしいのではないでしょうか。そうであれば、「重大な後遺症が残らなかった」ことの立証を原告にさせるのではなく、拘置所側でそうした可能性が乏しいことを立証した場合に限って免責されるものと考えるのが筋だと思います。
 最高裁のこうした発想の根幹にあるのは、被収容者なんだから、普通の医療が受けられなくてもやむを得ないというものではないでしょうか。1審の東京地裁は、拘置所の被収容者は「未決勾留されているに過ぎず、勾留されていることによる必要最小限度の制約を受けるとしても、疾病によりその生命・身体が危険な状態になった場合にそれに対応した適切な医療行為を受ける利益は、最大限尊重しなければならない」と判示していますが、そうした発想が当然だと思います。