なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

立川反戦ビラ事件

 昨日、最高裁が最低だと罵倒しましたが、先週もあったサイテーな最高裁判決がこれ。まずは、新聞記事を紹介。

 東京都立川市防衛庁(当時)宿舎の新聞受けに、自衛隊イラク派遣に反対するビラを許可なく入れたとして、市民団体のメンバー三人が住居侵入罪に問われた事件の上告審判決で、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は十一日、「表現の自由は無制限に保障されるわけではなく、他人の権利を害する手段は許されない」と述べ、被告側の上告を棄却した。
(中略)
 判決はビラの内容ではなく、配布方法の妥当性のみを検討したことを強調し、刑罰が必要なほどの「住民の被害」については具体的に触れなかった。判決がかろうじて言及したのは、官舎の管理人から被害届が提出された事実だが、公判の過程で、その被害届はあらかじめ警察が準備したことが判明している。
(後略)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008041202003085.html

 結論はほとんど予想されていたようなものです。問題なのは、その中身。あまりにも表面的で薄っぺら。
 ここで求められているのは、「他人の権利を害する」ことになっているのかどうか、その実態ではないでしょうか。自衛隊も周辺の住宅に自衛官募集のビラを投げ込んでいたし、ピンクチラシやピザなどのチラシも、その官舎には投げ込まれていました。このように、ビラ配布は、日常的な行動として、まったくフリーではないにせよ、広く行われてきたものです。いったい、このビラ配布によって、誰のどのような人権が具体的に侵害されたというのでしょうか。
 最高裁が判断を求められていたのは、こうした事実に向き合った上で、最高裁としてきめ細かい判断を示すことではなかったのでしょうか。昨日の広島弁護士会国賠判決でもそうでしたが、内容はきわめて薄く、抽象的な記載のみです。最高裁は最終審なのですから、もっと時間をかけてでも、判決を受けたものが、負けても納得するような判示をすべきではないでしょうか。裁判所の説明責任といいますか。
 ついでながら、この反戦ビラ事件(テント村事件)の捜査の手法もめちゃくちゃでした。被害届を警察が準備し、ねらい澄まして逮捕。2ヶ月以上もの身柄拘束。公安の検事による弾圧的取り調べ。最高裁は、結果的に、そうしためちゃくちゃにも太鼓判を押したものです。
 アムネスティが批判声明を出していますので、その一部を引用しておきます。

今回の判決は、政府と異なる意見に対する弾圧そのものであり、有罪判決それ自体が、国際人権基準に対する重大な挑戦である。アムネスティ日本は、人権を保障する義務について、日本の法執行機関および司法機関が理解していない点を強く懸念する。この点については、すでに自由権規約委員会などの条約機関からも、再三にわたり、国際人権基準についての正確な理解を欠いている旨が指摘されている。日本政府は、条約諸機関からの改善勧告を誠実に実施し、法執行機関および司法機関の職員が国際人権基準を十分に理解できるよう、具体的な措置を講じるべきである。

今回の事件に見られるような国家による人権侵害、表現の自由の侵害を防ぐために、国際人権基準に基づき、独立した国内人権機関による救済措置や、条約機関に対する個人通報手続などが設けられなければならない。こうした点も条約諸機関からたびたび指摘されている。しかしながら日本政府は、これらの勧告も実施しておらず、個人通報制度も受託していない。アムネスティ日本は、日本政府が速やかに個人通報制度を規定する自由権規約第一選択議定書に加入すること、ならびに国際基準に基づく独立した国内人権機関を設置するよう、強く求めるものである。

http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=467