なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

被害者の人権と刑務所問題について

 この日記では、刑務所問題をしばしば取り上げています。刑務所における受刑者のおかれた地位というのが、いささかひどすぎるのではないか、と思うのがその発端です。国家が受刑者をないがしろにするような社会というのは、結局、社会的弱者といわれるような人たちに対しても、その人権を軽視するような社会になってしまわないか、ということを懸念しています。
 ただ、刑務所問題を語るうえで欠かせないのは、被害者の人権という視点です。受刑者の多くは、被害者に何らかの害悪(ひどい場合にはその生命を奪ったり)をもたらしたがゆえに、刑務所に入れられているものです。従来、刑事訴訟や刑務所問題というのは、犯罪者の権利を擁護することばかりに主眼を置きがちであり、被害者の人権をいかにして守っていくか、救済していくかという視点がこれまで弁護士会内部にも欠けていたことについては、率直に認めざるを得ないし、その取り組みを今後はいっそう強化していく必要があるのではないかと思っています。ですから、コメント欄でfdok-nkさんにご指摘いただいた点はもっともなところですし、福島刑務所でそのような講演が行われたとすれば、まさに高く評価すべきことだと思います。
 私は、刑務所問題をライフワークの一つとして取り組んでいますが、今の刑務所に欠けているのは、受刑者に対する教育の側面だと思います。刑務所は受刑者を管理して服従させようとするばかりだし、受刑者もそれに徹底的に反抗して開き直るか、逆に服従したふりをして社会復帰を待ち望み、復帰後にはまた好き勝手をしてしまうというようなところが大です。しかし、これでは刑務所が犯罪の再生産工場になりかねません。受刑者がいずれは社会に戻っていく立場であることを前提とするなら、受刑者にたいしては、被害者の人権も含め、社会内で他者と共存していくことの大切さ、重要さ、人の権利・自由を尊重することの大切さをもっと教えていくべきです。厳罰を科したり、反抗する受刑者に懲罰を科してこらしめるだけでは、犯罪者の心は立ち直る術がありません。受刑者が社会に戻ったときに、どうすれば再度、犯罪を犯さないようになるかということを、当の受刑者自身がよく考え、自分で判断をできるようにしていかなければ、なんの解決にもならないように思います。刑務所当局には、そのことを踏まえて、受刑者の改善のための取り組みをしてほしいものだと思っています。
 この日記では、「被害者の人権」という切り口をストレートに取り上げて議論をすることはめったにありませんが、上記のような問題意識を持っていることをご理解いただければと思います。