なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

痴漢冤罪事件が誕生する瞬間

 よくある展開は、女性から「触ったでしょ」とかいわれて口論になり、ホームに降ります。そこで言い合っていても埒があかないので、「それじゃ、駅の事務室で話そう」ってことになるわけです。女性側が連れて行くケースももちろんありますが、男性側が、他人の目を気にして「事務室の方が落ち着いて話せそうだ」と考えたり、「やってないのだから冷静に話せば女性もわかるだろう」とか「駅のひと(あるいは鉄道警察)なら、言うことを信じてもらえるだろう」などという気持ちで、積極的に女性を案内して事務室へ行く場合が結構あるのです。
 ところが、多くの場合、ここでかけつけた警察官に「現行犯逮捕」されてしまいます。
 普通、逮捕は逮捕状がないとできません。逮捕状は裁判所が出します。それなりの証拠が必要なのです。その唯一の例外が、「現行犯逮捕」です。現行犯の場合には、逮捕状はいりません。なので、事務室に行った段階でいきなり逮捕されてしまうのです。
 しかし、男性は駅事務室で女性に痴漢をしたわけではないですよね。では、なぜ現行犯逮捕が可能なのか。それは、女性が車内で(あるいはホームで)現行犯逮捕したことに(書類上)なっているのです。
 冒頭の事例をよく読んでください。女性は決して、男性を逮捕したわけではありません。「触った」「触らない」の水掛け論をしていたり、話場所を求めて駅事務室にお互い歩いて行っているだけです。それでも、警察は、「現行犯逮捕」があったことにして、ことを進めるのです。
 要するに、警察は「現行犯逮捕」してしまわないと、あとから逮捕することが著しく困難であることをよく知っているのです。そりゃそうです。触ったことを証明する証拠が女性の証言しかないとすれば、よほど怪しくない限り通常の逮捕は困難です。だからこそ、警察は、無理やり「現行犯逮捕」したことにして身柄を拘束してしまうのです。
 身柄を拘束してしまえば警察の思うつぼです。あとは「認めれば釈放してやる」、「罰金で済む」、「家族や会社には言わない」などと誘導して虚偽の自白調書を取ります。ところが、約束は守られず、逆に自白したことが証拠となって、長期間身柄拘束が継続したり、裁判にかけられたりするのです。
 男性が身を守る教訓のひとつは、駅事務室に安易に行かないということもあるかと思います。