なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

人権擁護法案の行方

 混沌としてきましたね。
 ネット上では、「ちょっとしたネットの書き込みでも、差別的言論だとされて逮捕される」などという見解がまことしやかに流れていますが、そこまで心配することはなさそうです。今だって、ネット上の言論が違法とされて発言者が逮捕されることはそんなにありません。人権擁護法がひとつできたところで、この法律には、その大きな流れを変えるほどの力はないですよ。
 ただし、そんな議論とは別の理由から、この法案には賛成しかねます。
 人権擁護法というのは、もともとは、行政権力とかマスコミなどの巨大勢力により個人の人権が侵害された場合に、それを速やかに救済するということを目的としているものでした。したがって、法が対象としているのは、国家権力(たとえば警察とか刑務所とか)による人権侵害であったり、あるいはマスコミの心無い報道によって名誉やプライバシーを侵害されるケースでなければなりません。
 にもかかわらず、マスコミの運動によって、報道による人権侵害はこの法の適用除外になりそうな雰囲気です。また、委員会が国家権力に対して堂々と文句をつけることができるようにするためには、委員会の活動の独立性が保証されるべきだと思いますが、いまの法案では、結局、人権委員会自体が政府の付属機関になっていて、その独立性も担保されていません。結局、行政に遠慮がちな意見しか出せないのではないかと危惧しています。
 そうすると、この法案が通ったとしても、行政やマスコミにものはいえない。かといって、冒頭に記したとおり、一般人を狙い撃ちにするようなこともできはしません。要するに、つくってもろくに機能しないという、無駄な組織になるだけでしょう。人権委員会というのは、今でも法務局にあるのです。この委員会が十分に機能していないのと同じように、この法案でつくられる人権委員会というのも、いまとさして変わらないものになるのではないでしょうか。
 こんな骨抜き法案なら、ないほうがいいのではないかと思いますね。