なるしすのブログ

地方の弁護士の日常を,あれこれと書くつもりのブログです。

 酔って帰宅途中にすり未遂 警視庁警部を逮捕(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040714-00001023-mai-soci
 やはり、警察官は、仕事がら、いろいろな悪い手口を知っているし、そういう犯人を見ていると、自分でもやってみたくなるのかもしれませんね。
  このニュースを読みながら、昔、扱った国選弁護事件を思い出しました。かなり不快な内容ですので、気分を悪くしたくない方は、この項目をスルーしてください。
 それでははじめます。
 裁判は、公開でおこなわれます。これは裁判官の行為を国民が監督するという重要な意味を持っており、憲法にも明記されています。というわけで、いつも刑事事件を傍聴しているおじさんがいました。失業中なのか、趣味なのか知りませんが、いつも傍聴席に座って裁判を聞いているおじさんなのです。夏場の法廷は冷房も効いていますし、まあ、それはそれで、そういう人もいるか、という感じでした。
 ある日、ひとりの男が、女子高生に声をかけ、脅してわいせつ行為をした(しかも被害者多数)という容疑で捕まりました。今でいう援助交際などをしていてラブホテルから出てきた若い女性のあとをつけ、「親にばらす」などとして、そういう行為に及んだのでした。その犯人から、小職に弁護の依頼がありました。
 小職は、その人の名前にまったく心当たりがなかったのですが、呼ばれた以上、放置するわけにもいかないので、警察に面会にいきました。そこでその犯人に会ってびっくり。いつも法廷で傍聴していたあのおじさんだったのです。聞けば、法廷でその種の事件を集中的に傍聴し、犯罪のテクニックとか、どうすれば捕まりにくいとか、学習したみたいでした。また、彼は、そうやってたくさんの法廷を傍聴する中、この弁護士なら期待に応えてくれそうだ、ということで小職を指名したらしいのです。
 もう唖然としましたし、われわれが一所懸命にやっていた裁判やその傍聴制度を悪用したこの犯人を許しがたいと思いました。ですが、結局、いろいろなしがらみで、小職がこのおじさんの国選弁護人にならざるをえなかったのでした。
 頭に来ているのは裁判官も同じでした。いつも傍聴している男でしたから、裁判官もよくおぼえていたんですね。
 彼には、かなり長期の実刑が下ったと記憶しています。被害者への慰謝料などもわずかしか用意できず、しかも当然ながらそれを受け取ってももらえなかったりなど、弁護人としてもやるせない事件でした。
 世の中にはとんでもない人がいるというお話しでした。